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「ああ、いや私は……」
奈々の質問に対し言葉を濁した堀内は、酷く動揺した様子で落ち着きなく視線を彷徨わせた。
「あれ? 堀内君どうかした?」
「奈々ちゃん、堀内恥ずかしいんだってー。代わりに俺の苦手なこと教えてあげよっか?」
顔を上げた平間が、にかっと笑う。両手は相変わらずだらりと垂れ下がり、全体的に怠惰な雰囲気が拭えない。
「俺はねー。学校が嫌ーい」
だってダルいんだもん、と続ける平間に、奈々は呆れたように返事をした。
「うん、それは知ってるよ」
そんなことは、奈々どころかクラスメイト全員が知っている。奈々が呆れるのも無理はなかった。
そんなふたりの会話をよそに、堀内はいまだに落ち着きを取り戻せないでいた。『苦手なこと』を簡単に口に出せない性格が憎い。何故自分はこうなのだろう。姿勢良く立つ堀内の視線が、自然と足元に落ちる。
「だーいじょーぶだってー。ガチで苦手なことなんて、わざわざ公表しなくてもいーんだよ」
「……本当か?」
そう言う平間は、本当に学校が苦手なんじゃないのか? 堀内の物言いたげな表情に気が付いたのか、平間は手をぱたぱたと動かした。
「なにそれ可愛い! ペンギンごっこ?」
奈々の無邪気な質問に、平間は「違うけど、そうかも?」などと適当に返事をしている。
どこの世界に教室でペンギンごっこをする男子高生がいるのだとは思うが、堀内には本当のところがどうなのか判断出来なかった。
彼はとにかく生真面目で、冗談の類は苦手なのだ。
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