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プロローグ
[1]
「そうは言っても、もう私たち二十二じゃん?おばさんだよ。大学に入ってきた新入生なんか見ると、『若いなあ』ってなるよね」
目の前のカウンターで、やけに明るい格好をした女子がグラスを片手にそう言った。中の梅サワーは殆ど残っていなかった。
少しだけ高くなっているこのキッチンからは、夏の暑さから逃げたいと言わんばかりに露出された胸元がよく見えるが、性的な興奮は全く覚えなかった。隣に座る、これまた派手な色の女子も上はそれほどでもないが、下は履いていないかと思わせる程短かったのを少し前に目の端で捕らえていた。
「十番卓に生一丁入りましたあ」キッチンの入口から中にいるスタッフに注文が伝えられる。ホールを担当するアルバイトの方がよっぽど可愛い。少なくとも安伸の天秤では目の前のギャル二人よりもホールの子の方が勝っていた。
「あいよ」と全員が口を揃えて返事をする。ドリンク担当が冷蔵庫からキンキンに冷えたグラスを取り出してサーバーから生ビールを注ぐ。最近では凍らせたグラスを出すような店も増えてきたが、個人的にはあまり好んではいなかった。飲むときにビールの中に薄い氷が混じっている感じが苦手なのだ。元々生ビール自体そんなに好きではないのだが。
それにしても、と安伸は思った。今日はやけに忙しい。確かに金曜日であるし、月末でもある。たくさんの客が来ることはバイトに来る前から想定していた。
しかし、自分の手元にある注文票はいつもの三倍くらいある。少し余裕がなくなってきた。いつもこっそり聴いている客の会話を盗み聴くことはこれ以上できないようだ。
結局、その日安伸が全ての作業を終えたのは午前一時頃のことだった。店主と二人だけの店で賄いを食べる。何時間と忙しく動くことができたのもこの時間のためだったと言っても過言ではない。
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