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 地下鉄のアナウンスで現実に引き戻される。僕は上腹部あたりに不快な感じがした。地下鉄の扉が閉まる音が鳴り、体が左右に揺れる。  僕は前を見られなかった。かばんを自分の膝の上にのせて両手を祈るように組み、俯く。  ふと、僕はどこに帰るのかわからなくなった。いつものように地下鉄の終点駅まで乗り、五分も歩けば自宅があるはずだ。もちろん、僕がいないとそこは色を失っている。飲み会のように扉をあけたら、耳を塞ぎたくなるほどのざわつきも、人の気配もない。あるのは静寂だけだ。  地下鉄は歩みを止めてはまた動き出すを繰り返した。人も増えて、僕も自然と視線が前を向くようになっていた。  目の前にいるサラリーマンは泥酔しているのか、足取りがおぼつかない。何度も、目の前にあるつり革を握り逃していた。やっと、掴めたかと思うと、俯いてうなだれる。  この人は機械なのかもしれないと僕は思った。表面に人間の皮膚をコーティングし、中身はいくつかの情報を解析しながら生きているように見えた。  では、僕も機械なのだろうか。いや、そうではない。ちゃんと心もあるし、食べ物だって口から入り胃に送られる。ただ、それは生きているとは言えないだろう。  もしかしたら、人間よりも機械の方がよっぽど生きているのかもしれない。  喧騒が僕の心を落ち着かせる。いつの間にかさっきまで感じていた上腹部の不快感はなくなっていた。  僕は祈るように握っていた両手を離し、肩の力を抜く。  やっと、終わりだと気が抜けていなのかもしれない。僕は隣にどんな人間がいるかなんてところまで気にしていなかった。だから、肩と肩がぶつかって、謝ろうと横を向いたときに僕は絶句した。 「金沢さん……どうしてここに?」  冷静な口調で言えたことに安心した。
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