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「ずっと、隣に座っていたよ。米田くん全然気づいてくれないんだもんひどいなー」  また、あざどい笑顔を浮かべ、僕との距離を縮めてくる。僕は自分の注意力がないことに呆れた。 「このまま一緒にいてもいいでしょう?」  好意というものは誰に向けられても心地の良いものだと思っていたが、それは間違っていたのかもしれない。興味のない人間に向けられる好意がこれほどまでに気持ち悪ものだとは知らなかった。  でも、それは僕が経験不足だからなのかも知れない。このあと、どう展開して、どういう経過を辿るのかなんてことは想像できない。  だからといって、金沢さんを追い返すわけにもいなかい。仮にも高揚した雰囲気のなかだったからとはいえ、イエスのサインを出してしまったのは紛れもなく自分自身なのだから。 「いいよ。無理しなくて」  その金沢さんの声をかき消すように終点駅のアナウンスが地下鉄内に響き渡った。  だいぶ人が減っていることに今更気づいた。そして、僕の目の前にまた僕が映っていた。僕はさっと目を逸らし、立ち上がった。 「無理なんかしてないよ。僕の家でもいいなら行こうか」  人と密接に関係を作りたくないだけ、僕は前に一度だけ金沢さんにそう言ったことがある。ただ、それはどう捉えられたかはわからないし、知りたくもない。
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