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 やはり、僕の部屋からは何の音も聞こえてこなかった。いや、厳密には僕以外の音は外からやってきた。それも、僕のすぐ隣に。 「郵便受けに就活のチラシがごっそり溜まっているけど」 「僕は進学だからあんなもの必要ないんだよ」  僕はいつものようにベットに腰をかけて息を吐いた。  金沢さんはそうと言って、物珍しそうに僕の部屋を見渡していた。着ていた上着をそっと脱ぎながら、地べたに座った。  六畳一間のスペースを二人で共有するには思った以上に狭すぎる。いつもなら、あんなにも広く感じていたはずなのに。 「そういえば、教授のプロジェクト断り切れなくて受けちゃった」  僕は興味なさげに相槌をうった。  やっぱりかと思った。断り切れなくなった状況は金沢さんが自ら作り出したのだろう。しかも、そのことを理解していない。なぜかそういう風になってしまった可哀想な自分とか思っていそうだ。  金沢さんはそんな自分が間違えなく好きなはずだ。 「寂しかったのよ」  金沢さんは弱々しくそう言った。おそらく、これは誰にでも言っていることだろう。そうだとわかっているのに僕もすごく温もりが欲しかった。  僕と金沢さんの距離が縮む。窓から走行する車のライトが反射し、室内を一瞬だけ照らす。室内は僕と金沢さの呼吸音だけが響いた。  金沢さんの手はとても冷たかった。身体は小刻みに震えて、俯いていた。 「すごく怖くて不安なのよ」  こうやって、数々の男は虜になって金沢さんの言いなりになっていったのかもしれない。確かに、その言葉は嘘をついているようには感じなかった。  ただ、僕はいつも分析をしている。目の前の視界がまるでゲーム画面のようにステータスが並び、相手がどんなやつなのかを事細かく表示する。その中で利用できそうな部分もしくは自分にとって利益のある部分だけを抽出し、行動に起こす。  だから、けして相手の思い通りになんて動くわけない。もし、そうなってしまっているのなら、それすらも僕の術中であるということだ。  だが、今回は明らかに違っていた。 「ありがとう」  どうしてしまったのだろうか。僕は相手のために動いている。そして、そのことに僕は喜んですらいる。  金沢さんを優しく抱きしめた僕はどこか遠くを見つめていた。
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