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 僕は研究室のすぐ左側にある休憩スペースに腰をかけ、外を眺める。人が群れながら施設に入っていく姿を見て、脆弱な生き物だと改めて感じた。    社会心理学の授業の中で、自己の利益だけを求める行動を「利己的行動」、他者の利益を優先する行動を「利他的行動」と呼び、それらは数々の論争を繰り広げていると聞いた。その授業で、人間はどちらに属するかレポートにまとめるという課題があった。    僕は迷いなく利己的行動に属すると思った。例えば、協力し合って何かをしましょうというのは、あくまでも外側の部分の話であって、内側では自分が集団から逸脱しないようにそうしなければならないという集団心理が働いている。けして、誰かの為になんて馬鹿げたことはないのだ。 「こんなところで何しているの?」  右目の下にほくろがあるこの子は、金沢さんだ。金沢さんは僕と同じゼミで、社会心理学でのグループ活動をしたあとから妙に距離感が近くなったような気がしていた。 「掛田教授に呼び出されて休憩していたところ」  金沢さんは僕の正面には立たずに左斜め四十度の角度で僕と対話していた。そして、屈託のない笑顔でそうなんだと答える。  おそらく、そういう素振りで気を引こうとしているのだろう。純粋な仕草で、おまけに肌も白い。ある程度の男性なら、好意的に感じてしまうのも無理はないのかもしれない。  それに、この仕草は僕だけではなく誰にでも、もしかしたら、教授とかにもそういう風に振舞っているのかもしれない。 「金沢さんはなんでこんなところに?」  金沢さんは目を横に流した。僕の心の目は蔑むように見つめていた。  金沢さんはどこまでも寂しい人間なのだろうなと思った。愛という温もりに飢えている。彼氏という道具を数個置いて安心するタイプだ。 「私も掛田教授に呼び出されたの……。だるいよね、正直。米田くんは参加するの?」  僕は首を横に振った。  温もりを常に求めている人間に否定は火に油を注ぐようなものだ。 「だよねー。あっ、じゃあそろそろ時間だから行ってくるわ」  僕は笑顔で手を振った。金沢さんも微笑み手を振り返す。おそらく、金沢さんはあんなことを言っておきながら、掛田教授の頼みを受けるだろうなと思った。あの人はそういう人間だ。  重い腰を上げて、帰路に着く。  
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