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その三人は男の話をしていた。一人は常に口に手を当てて、やばいとしか言わない女。もう一人は、スマホを眺めながらときどき笑う女。もう一人はその間に挟まれて、二人の会話をつなぐ女。同じ制服を着て、同じ場所から帰っているはずなのに歪だった。
あの三人を繋いでいるものは何か、それはもう明白だ。言うまでもないだろう。
エスカレーターから降りて、僕はその三人とは反対側に歩いていく。
いつもはない左通行と書かれた棒が通路の真ん中に設置されていた。何かイベントがあったのだろうと、あまり気にしなかった。
僕はつまらなさそうに左通行という規則を守る。別に守るほど、あちらの通路は混雑していないけれど、僕は右側を歩こうとは思わなかった。
すると、向こう側から大勢の人の気配を感じた。革靴が奏でる独特なハーモニーが駅構内に響き渡る。
そのすぐ後に、スーツを着た人の群れは逆側の通路を占領した。帰宅ラッシュのサラリーマンの群れかとも思ったが、スーツを着た集団には初々しさが漂っている
僕はすべてを理解した。そして、その集団と逆側を歩いていることに優越感を感じた。僕はみんなとは違う。そのことがどうしようもなく心を震わせた。
横目に一人一人を確認していく。こいつは何社か決まるだろう。こいつは右手に大手企業の紙袋をぶら下げている。これではダメだろうなと、心の中で嘲笑う。
決まったルールの中で、さらに雁字搦めになっている人はどうなるのだろうか。僕はそのことを考えるだけで吐き気を催した。
ため息をついてから、緩めていた足取りをすばやく動かす。
ポケットにあるスマホが震えた。僕は邪魔にならないところで立ち止まり、スマホの画面を確認する。どうやら、ゼミのラインが動いていたらしい。
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