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ゆっくりと酒井さんという人間を分析しようと思考を働かせる。普段は、静かにしているが、心の内側に秘めている欲望は大きいのかもしれない。
三大欲求は誰にも避けられない。欲望の強さの度合いはあるにしろ、全くないとなれば生物として欠陥品である。そうなると、僕は欠陥品に分類されてしまうが。
ストレスの発散かと口に出そうになったのを抑えて、酒井さんの目を見つめた。
「興味ないね。でも、酒井さんがそういうことしたいなら、僕は構わないよ」
子供に語りかけるように言った。色気を出そうとも、そういう雰囲気にしようとも思っていない。ただ、この後どのように展開していくのか興味があった。
酒井さんが赤面していくのがわかった。その瞬間、僕の高揚していた何かは氷水につけられたように冷えていった。
酒井さんは頷いた。いや、本当は頷いていなかったかもしれない。あまりの羞恥心に震えてしまって、それが頷いたように見えたのかもしれない。
時間がとてもゆっくりと流れていく。
周囲のざわつきは心地の良い音色となって僕の耳を刺激した。
ふと、みんなの表情を順々に見ていく。
笑っている人間、それを見て笑っている人間、顔を紅潮させている人間、少し寂しいそうにしている人間。
人はいつから友達になり、親友となっていくのだろうか。異性の間に友情はあるのだろうか。恋はどんな匂いなのだろうか。僕はどれも知らない。
いつも諦めていた。本当を知るということはどれほどの苦痛を伴うと知っているから。
「……ごめん」
黙って俯いたままの酒井さんに僕はそう言った。
僕はトイレかどこかで頭を冷やそうと立ち上がった時だった。僕の服の裾を引っ張る酒井さんの姿があった。
近づいてしまう。僕の中で操作している糸がそう告げている。いつもなら、ここで離れて張り詰めた糸を緩める作業をしただろう。でも、このときの僕はやっぱりアルコールが回りっていたのかもしれない。
僕は距離を縮めようと酒井さんの肩を優しく叩いていた。ふと、視界の中に金沢さんが映る。しかも、こちらを見つめて微笑んでいた。
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