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「いいだろう。認めよう」私の話を聞き終えた所長は、ため息まじりに言った。「白い部屋へ入所するのは、万人に認められた権利だからな。君を止められやせんよ。だが、どうしてだ? ここでの仕事がイヤになったのか? 決して無理なことはやらせなかったつもりだが」
「いや、所長の心配りには感謝しています。雇っていただいた恩も忘れてはいません。仕事も、私の得意分野ですから何の問題もありません。でも」
言葉を濁した私の後を、所長が引き継いだ。「でも、飽きた。いや、ちょっと違うかな。白い部屋の住人が羨ましくなった――そういうことだろう?」
「……まあ、その」
「いや、いいんだ」所長が、言い淀んでいる私を制した。「実を言うと、前例がないわけでもない。毎年、ここに勤務する職員の一人や二人は、そういうことを言ってくるんだよ。もちろん、彼らの自由だから、好きにさせるがね。下を見たまえ」
所長が、住人の何人かを指差した。
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