0人が本棚に入れています
本棚に追加
音の中の人形たち
「君の腕なら細かい技術指導は不要だろう」白衣に身を包んだ所長が微笑んだ。「さっそく調律に取り組んでもらいたい」
私は頷きながら、窓越しに下を見る。監督指令室の大きな窓から見下ろせるのは、真っ白い部屋だ。白以外の色は一筋とてない。病院のほうがまだ他の色彩が存在する。ここは、本当に真っ白だった。
そこに、人間が蠢いている。十数人はいるだろうか、それぞれがおもむくままに動いていた。不思議なことに、誰一人として他人に関心を持っているふうはなかった。各々が勝手気ままな動作を繰り返しているように見える。
だが、共通した部分もある。全員が小さなイヤホンをつけていた。コードは出ていない。まるで外部の雑音を遮断する耳栓のようだ。耳からのぞいたその先端が、微かに光っていた。人によって発する色に違いはあるが。
私は彼らの様子をしばらく眺めていたが、やがて自分の仕事を開始した。所長が「作曲」したデータを微調整する作業に。
最初のコメントを投稿しよう!