第1章

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「イヤホンの色が青だと、指示が遂行中だということになる」所長がランプのたくさん並んだパネルを見ながら言う。「赤なら作業終了だ。次なる指示を与えなければならない」  そう。そして、事前に説明を受けている私は、その指示が強制的な「命令」ではなく人々が自ら望んだ「指示」であることも知っている。  働く意欲、いや、生きる目標をも失った人々が、「最後の生き甲斐」を求めてやってくる場所がここだ。こういう施設が、全国各地に点在していた。国の機関だ。  この作業所には二つの意味が込められていた。一つには、今ではほとんど希望者がいなくなった単純作業の担い手の確保である。いつの時代も、人間自らが行わなければならない作業というものは存在する。国にとって、ここへの入所希望者は願ってもないことであった。  もう一つは、療養である。精神的に不安定な状況にある彼らを集め、作業療法の名の元に労働力を確保するのである。
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