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自我が芽生える前の身体にマインドコントロールプログラム(MCP)を適用することを政府が認可して以来、自殺者は皆無に近かった。それ故、ここへの入所者は後を絶たなかった。国にとって、まさに一石二鳥の作業形態だった。もっとも療養など名ばかりで、実際は労働力の確保がすべてだった。そして、その方針を確実に実行できているのは、「音楽」の力だった。療養のための音楽のはずが、実際には人間の意思能力を封じ込める要素が盛り込んであった。一種の洗脳かもしれなかった。
「イヤホンが赤に変わった人には、このパネルで新たな音楽を送信してくれたまえ」所長が二十七番のスイッチを押した。すると、それまでじっと座り込んでいた男がすっくと立ち上がり、新たな作業を開始した。
「音楽には指示が盛り込んである。彼らが指示の内容を正確に遂行できるか否かは、私の作曲にかかっているのだ」と二ヤリと笑って続ける。「そして、君には私の補佐、つまり旋律の微調整をしてもらいたい。『住人』が微塵の狂いもなく指示を完遂できるように。期待しているよ」
そこまで言うと、所長は監督指令室から出ていった。
私は窓ガラス越しに下を見下ろした。
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