第1章

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 私は住人の様子を伺った。この温度の感じられない真っ白な部屋でも、彼らはなんら気にすることなく活動している。とは言え、彼らからも温度が感じられないというわけではなかった。彼らは忠実に指示を遂行していた。それも喜びに満ちた表情で。  自ら何も考えなくていい生活。労働意欲を失い、ひいては生きる気力も失いつつあった人々が、ここへ来て変わった。こちらの指示に従って喜々として働いている。  ――自ら考えなくとも、自分のやるべきことを他人が教えてくれる。自分は与えられた任務だけをこなしておけばよい。余計なことは考えなくともいい――  まさに消極的な労働感覚ではあるが、それが彼らを救っているのは事実だ。そして、そういう人々が全国規模で急増していた。
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