0人が本棚に入れています
本棚に追加
「この足はね、昔から悪い足だったのよ。男の子を蹴飛ばすときに使ったし、お菓子の皿を引き寄せるときにも使ったわ。あ、そうそう。お父さんがあたしを叱ったとき、彼の飲むコーヒーにこっそり突っ込んでやったこともあったっけ。だから、食べられて当然なの。そんな罪深い足だから、ケガをしたときもほったらかしにしていたしね」
へえ、いろいろ大変なんだね、とあたしは微笑んだ。
そのとき、蜘蛛の巣が微妙に揺れた。なんだろう、風を受けた揺れ方とは違うみたいだし、黒ちゃんが帰ってきたのかな。
カオルに尋ねようとしたとき、大きな蜘蛛が上から下りてきた。背中に赤い模様のある蜘蛛。カオルのすぐ後ろに着地する。
振り向いたカオルの顔が緊張した。小さく悲鳴を上げる。
なんで? 黒ちゃんじゃないの? そう問いかけたかったのだけれど、カオルの緊張が伝染したあたしは声が出せなかった。
蜘蛛が前足を上げた。口を膨らませる。カオルに狙いを定めたようだ。
カオルがかすれた声を絞り出した。「やめて、いやよ。あんたなんかじゃ、いや。あたしはあげない」首を振りながら後ずさった。
最初のコメントを投稿しよう!