第1章

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 蜘蛛がアゴを突き出したとき、真っ白い矢が、蜘蛛めがけて降ってきた。蜘蛛が後方へ飛び退いた。  矢と思ったものは、糸だった。蜘蛛の糸。それが目の前の大きな蜘蛛の頭をかすめた。 「黒ちゃん!」カオルが上を見ながら叫んだ。つられてあたしも見上げる。木の枝に黒ちゃんがいた。八つの目が巣の上の蜘蛛をにらんでいる。  黒ちゃんが巣の上に飛び降りた。カオルと赤い模様のある蜘蛛の間。二匹の蜘蛛がにらみ合った。誰もしゃべらない、何の音も聞こえない時間が流れた。  やがて、赤い模様のある蜘蛛はジリジリと後ずさり、巣の上から飛び降りた。 「ありがと、黒ちゃん。助かったわ」カオルが全身で喜びを表現しながら飛び跳ねた。  黒ちゃんはチラとカオルを見て、そのあとあたしを見た。そして、何事もなかったかのように木を登っていった。 「ときどきあるんだよね」カオルが葉っぱの上に座り込んだ。「いろんな蜘蛛があたしを狙ってやってくるの。ほら、この笛の音色、蜘蛛には評判がいいらしくてね。あたしをさらおうとする蜘蛛が後を絶たないの。でも、あたしは黒ちゃんに決めているんだ」 「決めているって、何を?」
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