0人が本棚に入れています
本棚に追加
蜘蛛がアゴを突き出したとき、真っ白い矢が、蜘蛛めがけて降ってきた。蜘蛛が後方へ飛び退いた。
矢と思ったものは、糸だった。蜘蛛の糸。それが目の前の大きな蜘蛛の頭をかすめた。
「黒ちゃん!」カオルが上を見ながら叫んだ。つられてあたしも見上げる。木の枝に黒ちゃんがいた。八つの目が巣の上の蜘蛛をにらんでいる。
黒ちゃんが巣の上に飛び降りた。カオルと赤い模様のある蜘蛛の間。二匹の蜘蛛がにらみ合った。誰もしゃべらない、何の音も聞こえない時間が流れた。
やがて、赤い模様のある蜘蛛はジリジリと後ずさり、巣の上から飛び降りた。
「ありがと、黒ちゃん。助かったわ」カオルが全身で喜びを表現しながら飛び跳ねた。
黒ちゃんはチラとカオルを見て、そのあとあたしを見た。そして、何事もなかったかのように木を登っていった。
「ときどきあるんだよね」カオルが葉っぱの上に座り込んだ。「いろんな蜘蛛があたしを狙ってやってくるの。ほら、この笛の音色、蜘蛛には評判がいいらしくてね。あたしをさらおうとする蜘蛛が後を絶たないの。でも、あたしは黒ちゃんに決めているんだ」
「決めているって、何を?」
最初のコメントを投稿しよう!