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黒ちゃんが口を膨らませた。男の人に向かって糸を吐いた。幾筋ものそれは男の人を絡め取って、身動きできないようにした。
「黒ちゃんの蜘蛛の仲間って、お尻とアゴの後ろの両方から糸を出すみたいよ」カオルが男の人からは目を離さずに、あたしにささやいた。「お尻は蜘蛛の巣を張るとき専門なの」クツクツと笑う。
黒ちゃんは糸を吐きながら、男の人を前足でグルグル回した。まるで綿菓子のように、男の人の体に糸が絡みついていく。まん丸く。とってもきれいに。
頭だけ出したまま、男の人の体は繭に包まれたようになった。身動きのとれない男の人が苦しそうに体をくねらせる。
黒ちゃんが男の人の顔に近づいた。男の人は黒ちゃんを横目で見たあと、「バカ息子め」とつぶやいた。
バカ息子? なにそれ? あたしは男の人の口から飛び出した意味不明の言葉に眉をひそめた。
あたしの疑問を消すかのように黒ちゃんが動いた。男の人の首筋に噛みつく。すぐに獲物の痙攣が始まった。激しい痙攣。その体の上に、黒ちゃんはたっぷりの唾液をかけた。
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