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「あれよ、あれ」カオルがなんだかうれしそうに笑う。「黒ちゃんの唾液は麻酔液と消化液が混じっているの。あたしの足も、あれでやられたんだよ。あ、ほら。あの男の人、溶けているでしょ」
あたしはカオルから男の人へと目を移した。ああなるほど、黒ちゃんの唾液を浴びた男の人の体がトロリとしてきた。
あたしは、食べるのに失敗して落っことしたアイスクリームを思い出した。アイスクリームと違うのは、男の人が虚ろな目つきになりながらも、最後にまた「お前など、もうウチの子供じゃない、下りろ」とつぶやいたことだ。あたしの落としたアイスクリームはしゃべらない。ましてや、ウチの子供じゃないとか下りろなんて意味不明なことは言わない。あの男の人、いったい何を言っているんだろう。
ねえカオル、とあたしは彼女の腕に触れた。「あの男の人、なんか変なこと言ってるよ。どういう意味?」
カオルはあたしの目をのぞき込んだ。目の奥の一番深いところ。そこを探るように見る。
突然、カオルがパカッと割れるような笑顔を見せた。「気にしない、気にしない。それよりもほら、見て。すごいよお」彼女が指さす先には、もちろん黒ちゃんがいる。
黒ちゃんが男の人の体に吸い付いた。溶け出した細胞を吸い込んでいる。黒ちゃんの食事の始まりだ。
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