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思ったよりもはやく、黒ちゃんは男の人を吸い尽くした。黒ちゃんは糸でくるまれた男の人の残骸を巣から放り出した。ボロ皮のようなそれは、もう声一つ上げることなく落下していった。
カオルがちいさく拍手した。「ね、見た? ねえ、見た?」
あたしを振り返るカオルの頬が紅潮し、鼻の穴が膨らんでいる。あたしもつられて拍手する。とりあえずうなずく。うん、見た見たと言い添える。
「あたしたちの場合は食べられるんだよ。血や栄養を吸われるんじゃなくて、まるごと食べられるの。美味しい肉は、食べるみたい」カオルがうふふと笑う。
「あたしたちって? それ、カオルやあたしが黒ちゃんの餌になるってこと?」
「なんでそんなことを聞くの?」カオルは笑いを引っ込めてあたしを見た。不思議そうな顔をしている。「食べられる以外にあたしたちにできること、ある?」
あるって聞かれても。あたしは一応、考える振りをする。数秒たってから、首を横に振った。
でしょう、と言ってカオルはまたうふふと笑った。
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