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「名前に『鳴る』って文字が入っているじゃない? あたしも鳴る物、持っているんだよ」カオルは辺りを見渡した。「今、ここの主、留守だから、ちょうどいいわ。面白いもの見せてあげる」
そう言うと、カオルはポケットから三本の短い棒を取り出した。それをつないでいく。長い一本の棒になる。そうか、笛だ。
じゃ、いくよ、と目で合図してから、カオルは笛を吹き始めた。
ひゅるるる、ひゅるる、ひゅーるるる。
川面を滑るような音が空気の隙間に忍び込むように流れていく。音の染みこんだ空気はあたしの肺の中にも忍び込んできて、やがて体全体に染み渡った。
あたしは全身でカオルの紡ぎ出した笛の音色を感じた。味わった。目が自然に閉じてしまう。まるで目から宝が漏れるのを防ぐかのように。
何かが動いたような気がしたので、あたしは薄目を開けた。
ここの主が戻ってきていた。笛を吹くカオルの後ろに、あたしの三倍はある巨大な蜘蛛がいた。蜘蛛は身動き一つしないで、じっとカオルの紡ぎ出す笛の音色に聞き入っているようだった。
カオルは笛を拭きながら、あたしを見てニヤッとした。ああそうか、カオルは後ろに蜘蛛がいるってことを知っているのか。
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