本気出す

3/6
前へ
/420ページ
次へ
 風呂付の部屋があるはずもなく、早々に諦めて第三城壁内で探そうとしたのだが、それでは遠いとジルに反対され(いつでも呼び出せる距離に住めと無茶ぶりをされた)、とん挫している。  ジルは浄化があるのだから、風呂は必要ないと言い張るが、そこは妥協したくない。  浄化と風呂はまったくの別物である。  かといって風呂のために一軒家を改築して住むのも無駄である。  俺は料理をする気がないので、寝室と風呂と研究室があればいいのだ。  時間が過ぎ、上の学園を卒業してからも部屋が決まらない状態でいたとき、実家から手紙が届いた。  伯爵家の人間がギルドに勤めるなど恥である。追放されたくなければ早々に戻れ。騎士団の魔術士隊へ入れてやる。  要約した内容がこれである。  魔術士隊なんてあったかなと疑問に思いつつ、戻らない覚悟を決めた。  貴族としてはもう本当に駄目なのだと思う。  だけど、俺はどうあっても貴族にはなれなかったのだ。  17年、キーマライト家の一員として生きてきても、俺はキーマライト家の人間じゃなかった。  育ててもらった恩義、なんてものも感じなかった。  むしろ勇者時代の慰謝料にしては安すぎる人生だって、そんなふうにしか思えなかったのだ。  最低な奴だと思う。だけど、結局はその感情が捨てられなかった。  俺の身体はこの世界で生まれたのに、俺の魂は違う世界で生まれたものなんだ。     
/420ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3102人が本棚に入れています
本棚に追加