愛ちゃんのバースデーソング

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「やあ、ハルコ。ラストフライトだな」 ハルコを見つけた整備兵の1人が油に汚れた手を振って呼ぶ。 整備兵の虎蔵もまた67歳の高齢者で、入隊前は工作機器メーカーの工場で働いていた優秀な男だ。 「やれやれだよ。5年の兵役は長いねぇ」 ハルコは、顔を皺くちゃにして笑う虎蔵に応えた。 「全くだ。日本の工場は涼しかったが、ここは熱くて蒸し暑いときている。あと2年もこんな場所にいるのかと思うと、気が滅入るよ。せめてエアコンの温度設定を下げてほしいものだな」 虎蔵は格納庫の天井を見上げた。 「我慢するのもお国のためだよ」 ハルコが自分の目線の高さにある男の肩を握り拳でたたくと、ガツンと固いものがぶつかる音がする。 シルバー自衛隊員が来ているシルバースーツという特殊な戦闘服は、筋力を補助する介護用スーツをベースにつくられたもので、AIを内蔵していて着用者の反射神経や感覚器官をも介助し、高齢者が若者と同等以上の動きをすることができた。外殻は太陽光発電機能を備えたナノカーボン繊維で織られていて、ちょっとした銃弾や爆発程度なら傷がつくこともない。 戦闘機に乗るパイロットや整備兵のシルバースーツまでもが迷彩色なのは、経費削減のために陸上自衛隊と色柄を統一しているためだ。 「本当に国のためだと思うのか?」 虎蔵が口元を歪めた。 「まさか。世界平和のためよ」 ハルコの言葉に「……」虎蔵は目を点にする。 「……年金のためよ」 ハルコがZEROのタラップに足をかけて言いなおすと、虎蔵は厳つい顔をくずして笑った。
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