石黒 三枝の場合

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*** 「おかえりなさい」 優しく出迎える妻は今日も鼻先を寄せる。自身が受けたカウンセリングを思い返しているかのように。 「ただいま、透子」 今日の透子は淡いピンクのワンピースを纏い、いつもより妖艶に微笑む。 「新調したの。どう?」 刹那、颯太の中に桃色の風景が広がる。 「素敵だよ、君が一番」 そんな自分の脳内を覗かれないように、気付かれないように。そっと両腕を開いて彼女を閉じ込める。 ここに存在するお互いを確かめ合うように、細いため息が絡まり溶けていく。 「アイシテル、透子」 end.
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