石黒 三枝の場合

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「三枝、待ってたよ」 颯太は彼女の耳元で甘く囁いた。やっと会えたのだ。そんな簡単な言葉だけでは言い足りないほど想いがあふれてくる。 うっとりした表情でそれを聞きながら、ゆっくり上着を外しソファに腰掛ける三枝。 その視線の先を気にしながら、颯太は二人で過ごす時間をどう進めようかとカルテを手にする。 「颯太くん、ここに……」 颯太はびくりと身体を震わせた。いや、気に残す部分はないはずだ。落ち着けと呪文のように心の中で繰り返す。 「ここに、置いておくわ。こないだ頼まれたもの」 普段はポーカーフェイスの彼だが明らかに冷汗を感じている。けれどプロだ。引きつった笑顔でごまかしながら、彼はそれに視線を運んだ。
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