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Come closer
ごめんなさい。
もう、それしかない。
脱ぎ捨てた洋服の真ん中に、崩れるようにしてしゃがみこんだ。
あんなに楽しみにしていたのに。
ずっと待っていたのに。
いざ当日になると急に怖じ気づいて強張る顔に、似合う服なんてない。
もう時間がない。
会社に行かなくちゃ。
いつもの着慣れた黒のセーターにベージュのパンツ。
それと履きなれたスニーカー。
会社で支給された制服の安心感に、私は慣れ切ってしまっている。
今夜の食事の約束が決まってから、暇を見つけてはファッション誌をめくり、流行りのメイクをサイトでチェックした。
痩せた白い肌の、欠点のないモデルたちなんか真似したってたかが知れている。
それなのに、私は彼女たちと自分を置き換えて、素敵になる事ばかりを妄想した。
これだと決めて、商品を手にしてレジへ向かう。
「でも……やっぱり、胸が開き過ぎてるかな」
V字のセーターを手に右往左往する私。
ネットだって同じこと。
口コミを読みまくって、何度も何度もたたいて石橋を渡り切って、ようやく手にしたものは誰かに似合う服で、決して私じゃない。
専門学校を出て、親に無理を言って上京して、ひとり暮らしを始めた。
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