嵐谷イサミの十戒 その一

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 僕とイサミさんの差は言ってみれば一オクターブという感じでした。  中学三年生と高校三年生の差を持つ僕らですから、同じ街に住んでいようと小学生時代でもない限り一つの校舎で会うことはありません。僕がイサミさんを知ったのが中学一年生の時でしたので、意識し始めた時点で接点を持つことはほとんど出来なかったと言えるでしょう。しかしある日、駅のホームで毎朝電車を待つイサミさんに羨望の眼差しを送っていた日々が終わりを迎えたんです。  この春、中学三年生となった僕は憧れていた女性――嵐谷イサミさんと付き合うことになりました。  ちょっとした偶然とそれはもう膨大な勇気。その結果によって掴み取った――というか、無我夢中で握りしめた結果が途方もない奇跡だった感じなのですけれど。  それでも僕は今、ずっと片思いをしていたイサミさんの彼氏。それを改めて自覚してみれば喜びで胸が一杯になるのでした。  ――そんな僕とイサミさんが付き合うことになって一週間が経った今日。学校を終えて放課後、いつものように二人で決めた場所にて集合することに。  さて、この嵐谷イサミさん。どういう人物なのかと問われれば、僕は間違いなくこう答えるでしょう。  イサミさんはちょっと――いえ、かなり変わった人です。  正直、こういった内面は僕も付き合うまで知りませんでした。……まぁ、それは外見に惹かれていた僕がイサミさんの性格もよく知らないまま告白したからなのですけれど。  そんな中身は関わってみればすぐに悟らされるくらいに強烈でして。初対面でも喋ればすぐに、イサミさんは普通の枠に収まらない人物だということが分かってしまうくらいに。  まぁそういった部分は敢えて思い返す必要もなく、今日――本人に会えばまた存分に思い知らされるのでしょうね。  というわけで、イサミさんとの待ち合わせ場所へと向かう僕。変わっている人柄と関係があるか分かりませんが、イサミさんは現代の高校生にしては珍しく携帯を持っていないので口約束で集合することになっています。
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