嵐谷イサミの十戒 その一

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 ついさっきまでの願望もあってか子供達の群れにためらいながらも入っていき、イサミさんと合流した会話の中で喫茶店に誘ってみました。するとイサミさんが「丁度いいなぁ。お腹も空いてたし」と同意してくれたため、晴れて憧れの眼差しさえ向けていた喫茶店へ入ることに。  ちなみに、もしイサミさんのお腹が空いていなければきっと喫茶店へと行くことは出来なかったと思われるので、その空腹には奇妙な感覚ですが感謝してしまいます。自分でも訳の分からない感情だと思いますが、これもイサミさんが変わっているという事実の表れでしょう。  しかし、散々変わっていると言ってはいますがイサミさんの人柄は支離滅裂なものではなく、どこか法則性とか規則的なものを感じる行動理念が根幹にあるので、その一挙手一投足は予測可能だったりします。  例えば「犬の十戒」みたいな項目でまとめられていれば、この人を理解するのは意外と容易いのかも知れないと――思うくらいには。  そんなわけで喫茶店に入ると窓際の席に向かい合うように座って僕はココアを、イサミさんは珈琲に加えて空腹だと言っていたように炒飯と唐揚げを注文しました。  随分と軽食方面にも力を入れている喫茶店のようですが、恋人同士で訪れるという憧れに憧れたシチュエーションに中華料理が顔を出してくるのは台無しのような気もします。……いや、でもイサミさんに食欲がなければこんな光景にさえならなかったんですか。  そのように思考しているとすぐにココアと珈琲が運ばれてきました。  目を閉じて上品な仕草で珈琲を口に運ぶイサミさん。注文の際にも平然とミルクを断っており、そんな自分には理解できない苦みを嗜んでいる様子に「まだまだ子供だなぁ」と痛感させられる気持ちも入り混じりながら。  しかし、優雅に珈琲を楽しむイサミさんの姿に見とれてしまうのです。  毛先が少しウェーブした肩に触れるくらいの髪は大衆の中にあっても輝き、見るものの目を引く白銀。そんな僕からすれば浮世離れした風貌に劣らないくらい鼻筋が通った顔立ちは非の打ち所のない美しさ。ぷっくりとした柔らかそうな唇は一度視界に入れば釘付けになってしまうほどの魅力があり、本人はちょっと気にしているという三白眼も強烈な個性としてイサミさんのビジュアルにクールな印象をもたらしていると思うのです。
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