嵐谷イサミの十戒 その一

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 それに加えてすらりと高い背丈に、豊満な胸が魅力的なのは言うまでもなくて。僕も男性ですので視線が吸い寄せられそうになり、しかしそれを悟られまいと慌てて違う方向を見つめる挙動を今日までにどれだけ繰り返したか。……まぁそのような僕の葛藤はさておくとして。  まさに立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、といった外見を有していながら――。 「どうしていつも子供と無邪気に遊んでるんですか。高校三年生、花も恥じらう乙女としての自覚はないのかと問いかけたいですよ」 「うーん。どうしてと言われれば……そりゃあ、お前が来るまでの間を有意義に過ごそうとした結果としか説明しようがないんだけど」  口に運んだ珈琲カップを再び皿の上へ音も立てずに戻すと、首を傾げて心底不思議そうな表情とイントネーションで語ったイサミさん。 「なら、暇を潰す方法は他にもあるでしょうに。わざわざ子供に混じって遊ぶのはどうなのかと僕は思いますよ」 「でも他の候補と一緒に篩へかけた結果、子供達と遊ぶ選択肢が残ったわけで」 「どれだけ目の粗い篩なんですか」 「他の粒が軒並み小さかったんじゃないか?」 「それでいてイサミさんの中で子供と遊ぶことは大粒だったんでしょうね」 「まぁ、粒の大小がどうとかお腹の空く話はいいとしてさ」 「想像力豊かですね」 「それよりも暇潰しって表現、まるでアタシが無駄な時間を許容しているみたいで好かないなぁ。それに、文句を言うならもっと早く来てくれよ」 「む! それは失礼しました……」  一転して強気な態度で言咎めてくるイサミさん。女性を待たせるという男としてあるまじき行為を平然と行っていたことに猛省しつつ、しかし僕は引き下がれない思いを口にします。 「……それでもやっぱりイサミさんは高校生なんですから、年相応の遊びや友人との付き合いを意識した方がいいんじゃないですか?」 「いーやーだー」 「もうちょっと考えるフリとかしましょうよ!」 「アタシが好きでやってるんだから、好きにさせといてくれよ」  僕の呆れ気味な発言に淡々とした返事をして会話を切り上げ、運び込まれた炒飯と唐揚げに小さく両手を広げて「うわぁい」と表情を緩ませて言葉を漏らすイサミさん。
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