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そう。この嵐谷イサミさんという女性はその恵まれたルックス、そして誰もが羨むようなプロポーションをしていながら何とも精神が子供的というか。例えば、興味が向く先だって年相応の女子高生が抱くような場所に留まっていないのです。
それはイサミさんと付き合うようになって僕が一番驚いたことで、先ほどの会話へ表れていたように思います。
ただひたすら自分の欲望に忠実で、他人から強制されることを好まない。子供とだって遊びたくなったら本気で遊ぶ。その逆だってあるかも知れない。周りの目とか、年相応などというためらいはこの人の中では働かないですし、僕がそれを意識させるように言葉を連ねても先ほどの会話で明らかなように無駄。
好きなことを好きなようにやり、自分の思うがままを貫いて生きる。
言ってしまえば欲望直結人間。
それこそが――嵐谷イサミさん。
まるで風のようだとか、猫のようなどと表現できそうな性格。
自由気まま。自由奔放。
だから、この人が満腹であったなら僕の意見など聞き入れず、今日はこうして喫茶店に来ることもなかったのでしょう。そして、昨日までの日々みたく「おおよそ現代の恋人同士ではしないであろうイサミさんの気が向いた遊び」に連れ出される流れになっていたはず。
――と、このように推測できるのもイサミさんの一貫した行動原理によるものと言えるでしょうか。
「それにしても今日は屋内でよかったですよ。昨日は大変でしたからね」
「まぁ、昨日はプロ野球のシーズン開幕時期ってこともあって、アタシの中にある球児としての魂が騒いだからなぁ。そりゃあ、ああなるよ」
「千本ノックって誇張表現だと思ってました。声に出して千まで数えてる人、初めて見ましたよ」
「でも、例えば千羽鶴とかって実際にそれくらい折るんじゃないのか?」
「あやうく千羽鶴を折ってもらう羽目になるところでしたけどね」
僕の語る口調が皮肉っぽくなったのは、イサミさんの気が向くままに発案された突拍子もない遊びに突き合わされた際の一場面を想起したからでしょう。
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