嵐谷イサミの十戒 その一

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 ですから、体も頭脳も大人なのに心は子供といった感じ。それこそ――イサミさんが「変わっている」と感じる一番の要因でしょう。  もちろんイサミさんの気が向くままに連れ回されるのですから、僕の方は疲弊してくたくたになる一週間でした。けれど、それでも何だかんだ付き合っている理由は自分でも分かっていて。  端的にいって、イサミさんが自分の思うがまま無邪気に遊んでいる時の笑顔がとても素敵だからでしょう。目は閉じ、眉が持ち上がっていて、そして白い歯が少しだけ覗く。そんな陽だまりを思わせる温かく優しい笑み。それが何もかも許せる心を僕にもたらすんですよね。  そして、それに加えて――。 「この唐揚げ、肉汁たっぷりで美味しい。幸せだなぁー」  イサミさんって本当、食べる時の表情も素敵なんですよねぇ!  本人いわく「燃費が悪い」そうなので、食べる姿は頻繁に見かけているのですけれど……見ているこっちの食欲まで刺激されてしまいそうな食べっぷり。そんな風に時折見せる表情があまりに素敵なものですから、イサミさんってズルいなぁと思います。はちゃめちゃな性格をきちんとカバーしているようで。  そんな風にうっとりとした心境でついついイサミさんを見つめていると。 「何だよそんなに見つめて」  ジト目で指摘されてしまい、ぼーっとしていた胸中を慌てて払拭し、急ごしらえな緊張感を有する僕。 「いやいや、そんなことはないですけど。ただ、美味しそうに食べるなぁと思いまして。ちょっと見とれちゃったというか」 「なるほど。お前も食べたいってことだな」 「あー、イサミさんフィルター通したらそうなりますよね。そういう訳じゃないんですけど……でもまぁ、そんな風に食べられたら確かにお腹も減ってきたような?」 「ふーん、そんなもんかぁ。じゃあ、ほれ」  そう語りつつ片肘をついて、空いた手で僕の方へと唐揚げを箸で差し出してきました。  自分の快楽に正直でゴーイングマイウェイな感じのイサミさんですが、他人と分かち合うことで楽しみが膨らむことは理解している。そういった裏付けになる行動と言えるかも知れません。自分の遊びたいことに僕をわざわざ巻き込むことからもそれは明らかでしょう。  とまぁ、そんな冷静沈着な思考はさておき。  ――ええぇぇぇええ!  何気ないイサミさんの行動で一気に心臓が跳ね上がる感覚を受ける僕。
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