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「綾女ちゃんもさ、何か名前考えたら?」
「そうですねー…どうしようかな。」
ゲスト枠で参加した綾女は早くも馴染んで、蝶子と盛り上がっている。
ちょんちょんとユキが主税の脇をつついて、目配せで付き合えと言ってきた。二人、酒を取りに行く振りをしてトイレに入った。
「おい、主税、わかってんのか?」
トイレに入るとユキはズバッと聞いてきた。
「は、はいっ?」
「呆けてるんじゃねぇ!ビシッと決めろ、ビシッと!」
「ビシて…」
ユキは口ごもる主税の腹にパンチを入れた。
「お前、このナリは見掛け倒しかよ?」
長い付き合いだが、こんなユキは見たことがない。いつもどこかクールで。それでいてちゃんと人を見ている。そんな頼れる先輩だ。
「俺はさ、男とか女とかって言葉でくくるの苦手なんだよ。知ってるだろ。」
主税を見る目には苛立ちが満ちていた。
「男だって事務職が天職てのもいるだろうし、女だって大型トラックを転がすのが好きってのもいる。
それぞれの特性で個性だ。それが生かされて、社会が回っていくってのはすげえことだし、それが当たり前であるべきだって思ってる。」
公務員のユキらしい意見だ。
「女装のこと。価値観が違えば理解できないやつもいるだろ。それは仕方がないことだよ。俺だってなんでもかんでも受け入れられるわけじゃない。
でもさ、理解できない趣味も人道的に問題がなければ、ただ、そうなのかって思うよ。それだけ。
だから本当に一生一緒にいたいと思う女と巡り合ったら、この趣味の事、言うよ?」
ユキはきっぱり言った。
「い、言うんですか?」
「言うさ。俺は恥ずかしいとは思っていない。これも俺だ。それを受け入れられないってのとは最初からダメって事だろ。
でもお前はどこかで恥ずかしいって思ってるだろ?今日の態度見てわかったよ。だからいつまでもウジウジして行動に移せないんだろ?」
「そんな事は…」
「いいや。そんな事あるね。いつまでたっても自信がないのがその証拠だろ?
女とか男とかこだわってるの、お前じゃね?」
それだけ言うとユキは主税を残してトイレを出た。
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