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ピンク、ブルー、オレンジ…フリルにギャザーにレース。スパンコールやグリッター。ふわふわキラキラ。ファンシーショップには乙女の夢が詰まっている。
「いらっしゃいませーお助けニャンのキーホルダー、入ってきてますよ?」
「これ、限定ものなんですけどー。」
ピンキーは若い女性に人気のファンシーショップだ。キラキラふわふわカラフルな店内はまるで女の子の夢のおもちゃ箱をひっくり返したみたいだ。
(ああ…癒される…)
がっしりとした背中。そびえる巨体。スーツの上からでもわかる筋肉。
塾帰りの女子高生に混じって、今人気のゆるキャラ・お助けニャンのキーホルダーを真剣に選んでいるのは猪俣主税、今年32歳。
「あ…やっぱフューシャピンクが可愛いよね…」
「いたいた。クマさん、今日発売だから絶対来ると思ったんだー。」
女子高生が主税に声をかけた。
「田中さんかー。塾帰り?」
「そう。春休みなのに真面目にオベンキョー。はい。これあげる。」
田中さんと呼ばれた女子高生から差し出されたのはお助けニャンのステッカーだった。
「え?いいの?」
「うん。ウチのパパが取引先からもらったって。いっぱいあるんだ。」
田中さんとはたまにこの店で顔を合わせるショップ仲間。お助けニャン好きというところで友達になったのだが、田中という名前と高校生であること以外は知らない。
「わー嬉しいなぁ。お父さんにお礼とか…」
「あーいいよー。気にしないで。ウチはいいんだけどー。親とか誤解しそうだし。」
「あ…そうか。そうだよね。」
巨体の持ち主がファンシーショップの真ん中でシュンとする姿は、まるでおとぎ話に出てくる熊のようだ。
「大人は頭固いからねー。」
「ねー。この前さぁ、テレビで女装子が出た途端におカマか!って。違うって言ってもわからないんだよねー。」
女子高生同士で話が展開する。主税は女装子の言葉にビクッとした。
「あ…俺、これ買ってくるね。あ、ステッカーありがとう。嬉しいよ。もう遅いしさ、田中さんたちも早く帰りなさいよ?」
「やーん!クマさん、大人みたい!」
「大人だよ!」
吟味に吟味を重ねたお助けニャンのキーホルダー。フューシャピンクとエメラルドグリーンを持ってレジへ向かった。
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