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長旅のあと
ここはアルシュファイド王国。
世界にただひとつの、黒土から成る大陸、そのほぼ中央に位置する。
南北に大陸を貫くふたつの峻厳な連峰が、その国土を東西の隣国より隔て、侵略の歴史を持たない。
農地はさして広くはないが、他の産業が相当に発達しており、またこの地特有の稀少資源もあって、国も、国民も多少の差はあれ、豊かに暮らしている。
この国を治めるのは若き双王、アークシエラ・ローグ・レグナと、ルシェルト・クィン・レグナだ。
国を動かす政王がアークシエラ…アーク。
国を守る祭王がルシェルト…ルーク。
そのふたりの王を支えるのが彩石騎士筆頭、白剱騎士ルゥシィン・ヴィーレンツァリオだ。
ルゥシィン…シィンの下には彩石騎士が4人いる。
赤璋騎士アルペジオ・ルーペン。
緑鉉騎士ファイナ・ウォリス・ザカィア・リル・ウェズラ。
緑棠騎士スー・ローゼルスタイン。
碧巌騎士カィン・ロルト・クル・セスティオ。
だが今日は4人ともいない。
長期にわたる任務のため、3人は他国へ、1人は北方へ遠行していたため、休暇を取らせたのだ。
シィンは寝台から起き上がってしばらく、ぼうっとしていた。
やがて身支度を整えると、黒檀塔の将校用食堂で食事を摂る。
黒檀塔とは、王城を湖からの敵から守る、盾となる要塞で、軍の中枢であり、アルシュファイド王国の騎士たちが住まう場所でもある。
シィンは食後の茶を飲みながら、つい昨日終わった、仲間たちの旅のことを考えた。
アルシュファイド王国を挟んで、大陸東にある国のひとつ、ザクォーネ王国守護の絶縁結界構築のための旅。
構築した術者は、水の側宮(そばみや)サリ・ハラ・ユヅリ。
水の側宮とは、土の宮、風の宮、水の宮、火の宮の四の宮公のうち、水の宮公カリ・エネ・ユヅリを助けるための役職だ。
四の宮公とは、この大陸のすべてのひとが、それぞれの分量で持つ、異能と呼ばれる土、風、水、火の能力を、膨大な力量で有する者たちだ。
その水の宮公…膨大な力量の水の異能を持つ姉に、勝るとも劣らない力量を持つ彼女は、見事にその役目を果たした。
もちろん、それを助ける手もあった。
彩石騎士アルペジオ…アルと、ファイナと、カィン。
風の宮公デュッセネ・イエヤ。
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