連休初日

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連休初日

       ―王城―    その日ゆっくりと起き上がったミナは、見覚えはあるが違和感のある光景に、しばらく記憶を探った。 自分はつい昨日、長旅を終えて帰ってきたところだ。 それを思い出すと、一気に全感覚が戻ってきたようだった。 今日は朔(さく)の日。 昨日ザクォーネ王国から帰ってきて、今日、明日、明後日まで3日間の連休だ。 ミナは大きく伸びをして部屋を見回した。 違和感があったのは、ここで過ごした期間が短いため。 まだユーカリノ区の自宅を我が家と思えている自分に少し驚く。 休みならもう少し寝ようかな、と寝台に体を埋めて、はっとし、素早く起き上がった。 デュッカ…風の宮公デュッセネ・イエヤが露台にいるかもしれない。 とくに約束したわけではないが、旅に出る前、自分が露台に出るとデュッカもいた。 別に自分を待っているわけではないだろうが、思い出すと露台に出て挨拶しなければならない気になってきた。 ミナはしばらく悩んだすえ、着替えて、身支度を整えてから露台に出た。 強い、風の気配がする。 ミナはそっと露台の端に行き、柵から乗り出して隣を覗き込んだ。 すると、隣との境界になっている植え込みの上から、デュッカが顔を見せた。 「あっ、おはようございます」 デュッカは 、おはよう、と返してから続けた。 「今朝は遅かったな。まだ寝台で休みたかったんじゃないのか」 そのわりにしっかり着替えているのはなぜかとデュッカは思う。 夜の衣を着ている姿は、どこかふわふわと漂う雰囲気があり、かわいらしいのだが。 朝は。 「そうも思ったんですけど、やっぱり起きようかなって…思い直しました」 恥ずかしそうに笑う姿もいいなと思いながら、要望を伝える。 「…朝食に行ってもかまわないか?」 「あっ、はい。言っておきますね」 そう言ってミナは部屋のなかに入った。 鳥の声が聞こえ、朝の空気は少し冷えている。 町は動き始め、デュッカの身内にある膨大な風の力を使わずとも、その様子は聞こえてくる。 一日の始まり。 穏やかな、アルシュファイド王国の朝だった。
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