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―ユヅリ邸―
寝心地のよい寝台から部屋の様子を眺め、サリは帰って来たんだなとまた思う。
起き上がって身支度を済ませると、階下におりる。
まだ誰も起きてはいないようだ。
食堂に入ると給仕が食事を運んでくれて、また帰って来たんだなと思い、今日は1日同じ感覚を受け通しなのかもしれない、と、ちょっと笑う。
食事が済むと自室に戻り、身支度をして部屋のなかを見回す。
今日は休みなので、特に用意するものはない。
土産を配りに行くが、その荷物は王城の居室にある。
王城に行くにはまだ早いだろう。
サリは階下におりて、寛ぐことにした。
居間に入ると低い机の上にきちんと並べられた情報伝達紙の類が目に付いた。
世界の情勢からアルシュファイド王国の小さな出来事までを載せている情報伝達紙を取り上げ、見出しに目を通す。
ボルファルカルトル国の第一王子の結婚。
セルズ王国における東西セルズの王の会談。
シャスティマ連邦の西端、パエラキースト共和国沖での海賊の活発化。
シャスティマ連邦の各共和国首相とレア・シャスティマ王国国王が集まる連邦会議の開催。
ウル共和国の内政混乱による軍の専横。
ミルフロト王国の国王退位と新王の即位。
クラール共和国での黒炭石研究成果の発表。
そして。
ザクォーネ王国のアルシュファイド王国による絶縁結界構築。
サリはそれを見て驚いた。
確かに自分がやったことだが、こんな風に情報伝達紙に載ることなど考えもしなかった。
衝撃のあまりうろたえ、周囲を見回す。
胸の鼓動が止まらない。
だが、ずっと静かな部屋にひとりでいると、徐々に落ち着いてきて記事の内容に目を通すことができた。
それによると、ザクォーネ王国の王都コーリナを中心に、突然絶縁結界が現れ、一時入国が出来なくなったとのことだった。
今では、ファランツが唯一の出入り口で、これにはふたりの女性が関わっているようだ、となっていた。
だが、彩石騎士の活躍と名前はあったが、自分とミナの名前はない。
不満なわけではないが…いや、ミナの名前がないのは大いに不満だ。
そのとき居間の扉が開いて、父、サムナ・ハク・ユヅリが入ってきた。
「やあ、おはよう。今日は休みじゃなかったかい、早いなあ…情報伝達紙をくれないか。ああ、読んでいるのだね」
「ええ…」
気落ちしている様子に、何が書いてあったんだい、とサムナが聞く。
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