その刃を振るうまで

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 一番合戦篝(いちばんがっせんかがり)。  彼女は私が知る中で、最も強く愚かな女だ。  どれ程か? それは簡単には語れない。少なくとも私も相当な愚か者だが、その私よりも愚か者だと断言出来る。  私も中々、救いようの無い部類に入る不遇さと愚かしさを持っていると自負しているのだが、彼女の前ではそれも霞んでしまうだろう。  滝の前の魚のように。  あるいは、轟然と燃える山の麓で、全くの別件として起きている、民家のちっぽけな小火(ぼや)のように。  ……いや、これは余りに皮肉が過ぎるか。流石の彼女も顔を(しか)めるかもしれない。  今の所何をしても、黙認してくれている彼女でも。 「新興住宅?」  私の急な言葉に、隣の一番合戦さんは顔を上げた。  一七〇センチジャストの長身、凛々しい顔立ちとクリップでフルアップに纏めた長い髪が、十六歳というのを疑うぐらい大人に見せる。ストライプの入ったグレーのスカートに濃紺のブレザーという我が校の制服が、これでもかと似合っていた。  短いスカートの下には長袖の赤いジャージ。白いラインが入っていて、七分丈に折っている。黒タイツを穿いており靴はスニーカー。身もスプリンターみたいに締まっていて、クールなスポーツ少女と言った様子だ。スニーカーはハイカットの方が似合うと思うけれど、面倒臭いので普通の方がいいとの事。 「ん?」  そんな彼女は、返事がやや遅れる。  今駅前を通った際、選挙演説をしていた候補者の応援団に、配られたチラシを眺めていたのだ。役人嫌いのくせに熱心に眺めているのは、期待なのか警戒か。  私も流れで貰ったけれど、すぐに近場のゴミ箱に捨てている。候補者にも応援団にも見えている位置だったが、向こうもそんなの慣れっこだろう。チラシも演説も、当選の可能性を少しでも上げる為の無差別攻撃みたいなものだ。人の都合なんて知らないし、人間は嫌い。 「あっち」  その駅を足元にするように、私は(そび)える山を指した。  久々に帰って来たけれど、相変わらず田舎だな。駅を麓に山があるなんて。もう一二月だから緑は大人しくなっているけれど、常緑樹の割合の方が高いから、年中ここは田舎だと突き付けて来る。  あの山は県境になっていて、高速道路やトンネルが走っており、中腹には真新しい住宅達の屋根が見えた。 「ああ」  どこを指しているのか気付いた一番合戦さんは、
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