その刃を振るうまで

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その為に迫害され朽ちていくあなたを見るのは、 私は死ぬより辛かった。   人を呪わば穴二つ。何があっても、誰かを恨んだり、憎んだりしてはいけない。魂が腐ってしまう。お前は物の怪かもしれないが、それでも優しく生きるのだ。さすればいつか、必ず分かってくれる人が現れる。  負に負けるな。流されるな。お前は人より、ずっと長生きで賢いだろう?  清く生きるのだ。何を謗られ、何を奪われようと。その主に忠誠であろうとする、気高いお前の魂のように。  鈍色(にびいろ)に輝く、刃の、如く……。 「餓者髑髏(がしゃどくろ)が大量発生してるって依頼だっけ?」  一番合戦さんが山を見ていた隙に滲んだ涙を、ブレザーではなく、下に着たカーディガンの袖で拭う。私は彼女のように、一二月でもブラウスとブレザーだけでやっていける程馬鹿ではない。馬鹿だから風邪を引かないのだろう。 「ああ。人里離れた場所を中心にな。山とか川とか、海とか廃墟」  一番合戦さんは肩から提げているスポーツバッグのサイドポケットに、ぐしゃっとチラシを押し込んだ。要らないならさっさと捨てるか、貰わなきゃいいのに。人がいい。  私がぶつ切りに会話を始めるものだから、とうとう足も止めた。駅の高架の下を潜って、山に向けて伸びる坂の上。左手は砂利を敷いただけの駐車場、右手には厳しい傾斜を下りた先に川があり、ガードレールとその間を竹林が覆う。  さっきから追い払っては、一定の時間を置いて飛んで来る蚊が鬱陶しい。農地が多いから至る所に溜め池もあって、二月しかいなくならないのだ。ちょっとした水溜りにでもボウフラが湧くぐらいだから、この町においての蚊の存在感というのも逞しい。 「何だかな。最近よく出るそうだ。路地で狸や野良猫の死体をよく見るから、それが原因ではないのかな」  前を歩いていた一番合戦さんは振り返ると、私より遥か先を見ながら言った。僅かに臨める海だろうか。  別に何を見ていた訳ではなかったし、何でもよかったんだと思う。私を直視せずに済むのなら。  餓者髑髏とは、弔われなかった戦死者達の無念の集合体だ。今は時代を経て、供養されなかった生き物達の無念を元に生まれる事が多い。  時代が変われば百鬼も変わる。単に戦が多かった昔は、人間を主成分に生まれる割合が高かったという話だ。大きな船が沈没したり、飛行機が墜落して大量の死者が発生したら、
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