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金田一二三には恋する男がいた。
その男の名は安藤吾郎という。
ついこの間まで1つ上の先輩、高校3年生だった。
安藤との出会いは、高校2年に進級した春に遡る。
当時たわいもない高校生活に暇を持て余した金田は、どこかの研究会にでも入会しようと、研究会が軒を連ねるフロアを物色していた。
そして、ふと目についたのが安藤が立ち上げていた、会員1人での「研究会を研究する研究会」略して「ケンケン研」だった。
こんなふざけた研究会に人が集まるわけがない。
一体どんな変人が立ち上げたのだろう。
金田は100%冷やかしのつもりで、その研究室の扉に手をかけた。
その部屋は全体的に薄暗く、最初はそこに人がいるとは気がつかなかった。
部屋の中央に敷かれている畳の上で、身体を丸めた男が少し寒そうに寝ていた。
その姿を見た時から金田は、この男安藤吾郎に心を奪われたのであろう、と、その時を振り返る度に感慨に耽る。
眠りから目覚めた安藤は金田の名前を「きんだいち・にいさん」と呼び、金田を吹き出させた。正しくは「かねだひふみ」である。
そして金田の出現に興奮した安藤は、研究会を「ミステリー研究会」略して「ミステリ研」に変えてしまった。名前は変わっても、もちろん会員は安藤と金田の2人だけであったことから、金田は1日の大半を安藤と過ごすことになった。
安藤に惹かれていることを自覚しつつも、自身の報われない恋愛は覚悟していた。
だからこそ、金田は安藤の卒業式の日に告白したのだ。
もう会わなければ、諦めもつくだろうと。
金田からしてみたら、一世一代の大仕事のような告白であった、にもかかわらず、安藤からの告白はさらにその斜め上をいっていた。
安藤は毎日ミステリ研の部屋で寝こけてばかりいたせいで単位を落とし、1年留年と相成ったというのだ。
これを幸運と呼ぶべきなのか。
そして先週安藤の誕生日を偶然知って愕然とした。
何と、早生まれだという。
つまり、生まれ年まで同じということだ。
もはや、どっからどう見ても先輩ではなくなったわけだ。
それどころか、今年の成績、授業態度如何によっては、金田の方が先に卒業してしまうという事態になりかねない。
それだけは、阻止しなければならない。
金田は己の最大限の知恵を振り絞り、安藤を無事に卒業させるべく尽力すると決意した。
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