ロマンチストとリアリスト

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ロマンチストとリアリスト

「──妊娠した?」    皐月(さつき)は電話相手に思わず叫んだ。 「お前、春に就職したばかりだろ? それに俺たちまだ22歳だぞ?」  6月末日、大学時代の親友が早くもα(アルファ)の番を見つけ、来月には専業主婦になると報告してきた。  発情期の度、欠勤する新入社員に同僚たちの風当たりは強く、一人ヤケ酒を煽っている時、たまたま隣の席にいたのがそのαだったそうだ。ベロベロに酔った親友を優しく介抱してくれて、そのままゴールインに至ったらしい。 「超展開過ぎるだろ、なんだよ、その良く出来た話は──でも、おめでとう。幸せになれよ」    決して嘘ではない──。  彼女は親友で、同じΩ(オメガ)の苦しみや生き辛さを共有出来る大切な相手だった──だけど……。 「一人で先に牢屋から出てったんだな……」  話す相手を失った携帯を握りしめ、皐月はぼんやりと窓の向こうへ視線をやった。  皐月が暮らす家は、中から見れば広い庭付きの高級マンションのようにも思えるが、その敷地はぐるりと高い塀とセキュリティに囲まれていて、外から見ればまるで刑務所だ。 ──刑務所と大きく違う点は二つ。  一つはここに住む人間は決して犯罪者ではないということ。     
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