ロマンチストとリアリスト

10/15
前へ
/15ページ
次へ
「──ごめん。俺たち行くね」  詠月は立ち上がって他の六人にそう告げると、二人分にしては多めの金額を友人に渡し、そのまま皐月を連れ去る。  驚きのあまり、皐月も残された六人とも、目と口が大きく開いたままだ。  皐月は詠月に手を引かれ席を後にする時、隣にいた彼女の顔が恐ろしくて見ることが出来なかった。 ──こんなのフィクションだ、ファンタジーだ。  拗らせすぎて夢を見ているのかも──?  皐月はそんな脳内パニックを起こしながら、前を歩く詠月の後ろ姿をまじまじと眺めた。  詠月は、小柄な皐月より頭一つ分は背が高く、優に180センチは超えていて、少し筋肉質な背中のラインがやけに色っぽいと、皐月は邪な思考をよぎらせた。 「ど、どこ行くんですか? あの、えっと、その…」 「会ったばかりの人に何かしようなんて幾ら僕がαでもしないよ──まぁ、今は、ね」 「いっ、今は?」 「あははっ、本当皐月くんて純真だね。綺麗な心の人たちの中でずっと育ったんだろうね」  初めてそんな風に自分を形容され、皐月は全身に衝撃を感じた。    無知で低能なΩと揶揄されることはあっても、そんな風に、しかもαに言われるなんて……。 「──詠月さん。俺……着替えたい」     
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

411人が本棚に入れています
本棚に追加