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「──ごめん。俺たち行くね」
詠月は立ち上がって他の六人にそう告げると、二人分にしては多めの金額を友人に渡し、そのまま皐月を連れ去る。
驚きのあまり、皐月も残された六人とも、目と口が大きく開いたままだ。
皐月は詠月に手を引かれ席を後にする時、隣にいた彼女の顔が恐ろしくて見ることが出来なかった。
──こんなのフィクションだ、ファンタジーだ。
拗らせすぎて夢を見ているのかも──?
皐月はそんな脳内パニックを起こしながら、前を歩く詠月の後ろ姿をまじまじと眺めた。
詠月は、小柄な皐月より頭一つ分は背が高く、優に180センチは超えていて、少し筋肉質な背中のラインがやけに色っぽいと、皐月は邪な思考をよぎらせた。
「ど、どこ行くんですか? あの、えっと、その…」
「会ったばかりの人に何かしようなんて幾ら僕がαでもしないよ──まぁ、今は、ね」
「いっ、今は?」
「あははっ、本当皐月くんて純真だね。綺麗な心の人たちの中でずっと育ったんだろうね」
初めてそんな風に自分を形容され、皐月は全身に衝撃を感じた。
無知で低能なΩと揶揄されることはあっても、そんな風に、しかもαに言われるなんて……。
「──詠月さん。俺……着替えたい」
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