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「くすり……? なに……?」
「何って……」と詠月は、なぜか酷く困惑した表情だ。
──解熱剤? 風邪薬?
皐月は、まだ膜が張ったようなハッキリしない脳内を懸命に巡ってみるが、全く思い当たらない。
とうとう痺れを切らした詠月が嘆声を上げた。
「抑性剤だよ! わからないの? 自分の発情期だよ?」
詠月は酷く狼狽えた顔をして皐月を見ていた。その表情は、会った時の彼からは全く想像出来ないほど余裕がなく、色白だった肌は染められたように真っ赤だった。
「アアッ! 発情期ッ!!」
顔のすぐ傍で大声を出され、詠月は反射的に目を瞑り肩を竦めた。
──気付かなかった。
いつも全く重要視せずに家でぼんやりと薬でやり過ごしていたせいで、実際の感覚を皐月は忘れていた──。
そして、もっと忘れてはならない事があった──。
目の前の男は、αなのだ──。
「持ってない? 買って来るよ、強いものでなければ処方箋なしで買えるよね」
そういって離れようとした詠月の腕を皐月は捕まえ、ベッドに引き戻す。
「皐月く……」
「会ったばかりの俺とじゃ、なにもない……ですか?」
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