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少なくとも皐月はそう認識した。
皐月は嫌悪感を露にして男を睨んだ。αなのだから当然かもしれないが、男はそれでも怯む事なく笑顔のままだ。
「じゃあ、話題を変えようかな。ねぇ、皐月くん、今日はここに何しに来たの?」
男は両肘をテーブルに着くと、両手を顔の前で組み、そこへ顎を掛け、上目遣いで皐月を見た。
「何? って……合コ……、食事会じゃないんですか…」
「──本当に?」
「何なんですか、一体……」
「僕はね、今日、運命の人と出会えるかもしれないと、本気で思ってここへ来たよ。だからキチンとしたつもりだよ。新品でないにしても服は綺麗なものを選んだし、靴も磨いた。髪だってセットしたよ、礼儀だからね──でも君は?」
いつの間にか男の顔からは人の良さそうな笑顔が消えていた。皐月はハッと息を呑み、己を見た。
──自分……は。
とりあえずで来ただけだった。ある中で全て済ませた。……本当に済ませたのだ。
適当な格好で、適当な心持ちで──そして、あわよくばと──。
ここへ来た瞬間、自分がした後悔を改めて男からも突き付けられる。
皐月は力なく俯き、とうとう黙りこんでしまった。
暫く膝の上に結んだ手を置いたまま皐月は逡巡し、ゆっくり男の顔を見た。
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