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「──あの、名前……」
「やっぱり聞いてなかったんだ、酷いなぁ。僕は名前にシンパシーすら感じたのに」
「シンパシー?」
思わぬ言葉に皐月は純真なこどものように首を傾げた。
「そう。改めまして、僕は一条詠月です。君の皐月って名は五月のことでしょう? 詠月は九月のことなんだ」
「へえ……」
「なんだか興味なさそう。ああ、僕の事は詠月って呼んでね」
なぜ興味がないと思うのだろうか、自分はただ、その緑碧玉のような美しい瞳に見とれていただけなのに……と皐月はぼんやり思った。
「──詠月さん、俺の事……番にしたいと思いますかって、……思わないですよね」
「聞いておいて自分で先に答えるんだ……。まぁ、今の君じゃ思わないかな」
「──です、よね……」
──不思議だ。自分でわかっていても改めてハッキリ告げられると傷付くものなんだなと、皐月は感情を誤魔化すようにワインを喉に流し込む。上質なワインなのだろうけれど、皐月にその良さは今は特にわからなかった。
「……ごめん」
突然の謝罪に、皐月は素直に驚く。
「今のは、ない。本当ごめん」
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