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詠月は苦い顔でグラスを回し、目が合うと誤魔化すようにやや眉を下げたまま微笑んで、新しい話題を振った。
「皐月くんは発情期いつなの?」
「ヒャッ?」
皐月は手にしていた高価なワイングラスを危うく落とすところだった。
「な、な、なん、なんで?」と、震えるグラスをテーブルに倒さないように置く。
「そんな茹でタコみたいに真っ赤になって照れないでよ、可愛いな」
「可愛……違ッ、き、聞く? そんなっ……」
「聞くよ、普通のことでしょう? αとΩには一番大切なことでしょう?」
皐月はその言葉に、自分たちの立場を思い出し、さっき少しだけ浮ついた体が、今度は一気に重くなった気がした。
「それが──一番大切なこと……」
「君はαと恋がしたかったの? 理屈っぽいわりに、中身は意外にロマンチストだ」
皐月は無意識下にあった図星を突かれ、返す言葉が見つからず、俯いて、きゅっと唇を結んだ。
グラスの横に力無く置いた手を不意に詠月に掴まれ、皐月は肩を大きく揺らした。
驚いて顔を上げると、詠月はあの穏やかな笑顔を浮かべていた。
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