雫ぽろりバースデー

8/8
前へ
/44ページ
次へ
「え、そうなのか?」 背後で声がして振り向くと、時山課長がドアの前に立っていた。 その手には見覚えのある模様の紙袋。 シャリルのものだ。 「小宮さんの卓上カレンダーに柳瀬の誕生日って書いてあったから。たまには俺もみんなと一緒にケーキ食うかと思って買ってきたのに。柳瀬がいらないなら俺が2個食うぞ?」 …どきん! 眼鏡ごしの拗ねるような眼差しに母性本能が刺激される。 あ、やられたみたい…… 「わあ、課長、気がきくう! 食べるよね?はるかさん!」 「食べましょ!私、お茶淹れてきまあす!」 いーちゃんと志田ちゃんが賑やかに動き出す。 「はるかさん、お誕生日おめでとう」 オトメさんがパチパチと小さく拍手をしてくれて、私の涙腺が緩んでくる。 「あと、これは俺から。ケーキなんて柄でもないもの買ったから。ついでに買ってみた。これ見て春だなって思ったから」 訳のわからないことをいいながら、照れ臭そうに時山課長が紙袋から取り出したもの。 それは、ピンクと黄色のスイートピーとかすみ草のミニブーケ。 優しいパステルカラーが心にしみて、私の瞳からポロリと雫が落ちた。 【完】
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加