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「どうぞ。冷めちゃうよ」
伊坂さんはハーブティーのカップを指差したあと、窓の景色を眺める。風が強くて、時折桜の花びらが舞うロマンチックな夕暮れ時。
彼の頼んだロイヤルミルクティはまだ来ない。
「あ、ごめんなさい。お先に頂きます」
「……」
気の利いた返しが出来ない自分が嫌になる。
懲りずに誘ったものの、私をどう扱えばいいのか伊坂さんが苦慮しているのがありありと伺える。
そうなるとこちらもますます萎縮してしまうという悪循環。
大して会話もないまま、時が過ぎていく。店内を流れる流りの洋楽を遮ったのは、伊坂さんだった。
「サラちゃんさ」
サラちゃん、は私のニックネーム。会社の人には、もっぱらサラちゃんと呼ばれている。ちなみに本名は更木久美子(さらきくみこ)。
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