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「……いえ、威圧感だなんてそんな」
私は、また視線を落とした。
一口ぶんが残ったクリームブリュレ。あと一息で飲み終わる冷えたハーブティー。
なにかの惨めな残骸に見えて、悲しくなる。
伊坂さんのご指摘に自覚はあった。
3ヶ月ほど前、庶務課から秘書室付けに配置変えになった私は、
百戦錬磨の先輩社員相手に神経をすり減らす毎日なのだ。
うちの会社の秘書室といえば、社内向かうところ敵なしの綺麗どころが揃ってる。
トップの社長秘書佐野さんは極妻みたいな和風美人だし、受付嬢の加藤先輩や高野先輩なんかはまるでモデルみたいな美しさ。
他の諸先輩方もおしゃれに手抜きは一切しない。そんな華やかさとは裏腹に女の世界はやはりどこでも、ややこしいものなのだ。
新人は常に素直に謙虚に。
先輩に絶対に逆らってはいけない。プライドの高い彼女たちを一度敵に回したら最後、大変なことになる。
特に容姿では足元にも及ばない私なんかは完全に縁の下の力持ちに徹すること。
これが私の世渡り術。
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