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日菜子はなかなか汗が引かず焦る隆生を見て、可笑しそうに笑った。皺が目立ってきた四◯代半ばの女性とはいえ、遠い昔の記憶にある、まだ少女だった日菜子の笑顔と重なってしまい、急に胸が苦しくなった。日菜子の笑顔も、ちょっとしたことですぐ胸が高鳴る自分も、時が経っても変わらないなと隆生は妙に嬉しくなった。そして、胸の高鳴りを日菜子に悟られぬよう、冷静を装って話を続けた。
「そっちの職場は大丈夫だったか」
「なんとか。隆生君は?」
「ああ、そんなことより日菜子……俺、話したいことがたくさんある」
「私も。一五年ぶりだもんね、私たち」
「車じゃなんだし、カフェでも行こうか?」
隆生がそう言ったあと、日菜子はフロントガラス越しの太陽に目をやった。目を細めてはいるが、強い日差しを嬉しがっているような横顔だった。少しの間を置いて日菜子は言った。
「ここでいいわ。ねぇ、窓開けてエンジン切って」
そう言ってすぐ、隆生の返事を待たずに、座席をめいっぱいリクライニングして寝そべった。有無は言わさぬと言った感じの日菜子の行動に隆生は何も言えないまま、強烈な熱気が車内に流れ込むのを覚悟して、言われた通り窓を全開にした。そして、エンジンを切り、同じように座席をリクライニングした。
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