2. 回想、男泣き

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2. 回想、男泣き

     家の脇を流れる川の向こう側に、名前のない公園がある。名前はないが、砂場、ブランコ、ジャングルジムなど、一通り遊具の揃ったそれなりに広い公園は、娯楽の少ないこの街の、遊び盛りの子供たちにとって最高の遊び場だった。公園には秘密基地もある。秘密基地といっても、公園の片隅にあるただの物置だが、子供五人が入っても窮屈さを感じないほどの広さはある。南京錠が壊れたまま何年も放置されているので、いつだって出入り自由だった。 全部で六棟並ぶ団地のちょうど中央に位置することから、子供たちは「団地公園」と名付けた。鬼ごっこ、缶蹴り、ブランコで靴飛ばし。夏は虫採り、水鉄砲や水風船を手榴弾に見立てた武器で戦争ごっこ。冬は雪だるま、かまくら作りに雪合戦。言い出したらきりがないくらいに、子供たちはどんなことでも遊びに変えて、それが尽きることも飽きることもなかった。 団地公園には、毎年春になると、小さく可憐な青い花を咲かす野草が生える場所がある。隆生はその野草がえらく気に入っていて、幼い頃は春になると必ず野草を摘み取り、母親や初恋の人にあたる日菜子に贈っていた。     
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