2. 回想、男泣き

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中学生になってからは、思春期特有の「照れ」が出てしまい、花を摘むようなことはなくなった。それでも隆生はこの公園に足繁く通っていた。だからといって、ブランコを漕ぐわけでもジャングルジムに登るわけでもない。隆生はベンチに寝そべりながら眺める星空が好きだった。星座なんてわからなかったが、キラキラと輝く星を見ていると、その時だけは嫌なことを忘れられるような気がした。進路、スポーツ、恋愛、家族関係。思春期にありがちな悩みで頭がいっぱいになると、親が寝たタイミングを見計らって夜の団地公園を訪れる。 今夜は来て正解だった。 ベンチに寝そべって眺める星空は、全身に鳥肌が立つほどの美しさだった。二日後、長い初恋がようやく実る。隆生は、日菜子の三年越しの告白にどう応えるべきか考えていた。小学六年の夏の失敗を繰り返さないよう、最高の返事を見つけ出すまでは家に帰らないと決めた。 隆生の親がマイホームを購入したのをきっかけにこの街に引っ越してきたのは、小学二年に進級したばかりの春だった。県庁所在地であるこの街に来る前は、同県南部に位置する、夏に大規模な花火大会があることで有名な街に住んでいた。花火大会の日だけは全国から人が集まり大変な賑わいを見せるが、それ以外は特に何もなく閑散した街だった。 同じ県内とはいえ、場所により言葉の訛りに差がある。隆生が話す県南部の独特の訛りは、さほど訛りがひどくないこの街に暮らす子供たちにとって、からかうにはちょうどいい存在だった。それはやがてエスカレートしていじめに発展することになる。     
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