2. 回想、男泣き

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転校して三カ月たった、夏の学校帰りの出来事だった。まだ仲の良い友達も出来ず、一人でとぼとぼと通学路を歩いていると、ふいにうしろからランドセルめがけて飛び蹴りをくらい、派手に転んだ。それを偶然目撃していたのが、川の向こう側の団地に住む佳彦、大介、裕太の三人だった。 「こらぁ、なにしてんだぁ!」 佳彦が叫んだ。その声に驚いたのか、佳彦という存在を恐れたのかはわからなかったが、飛び蹴りをした同級生は逃げるように走り去っていった。 「おいおまえ、大丈夫か?」 佳彦は倒れたままの隆生に声をかけた。先ほどの叫び声とは違い、心配がひしひしと伝わってくる優しいトーンだった。隆生は起き上がろうとしたが、バランスを崩し尻もちをついた。その時、擦り剥けて血が滲む膝が目に飛び込んで泣きだしそうになったが、なんとか堪えた。 「こんぐれぇなんともね」 隆生がそう強がると、佳彦はふっと笑って言った。 「おまえ、つよいんだな」 「まずな。びゃっこいでがったけども」 その訛り言葉を聞いた佳彦は笑った。しかしその笑いは他の同級生たちの、訛りを馬鹿にするような笑いと違うのが隆生にもわかった。酷い擦り傷を負いながらも強がる隆生を認め、喜ぶようなニュアンスがあった。 「よし、じゃあおれたちの仲間に入れてやる。おまえらもいいよな?」 後ろに立つ大介と裕太に言うと、二人は「もちろん」「いっしょに帰ろうぜ」と笑顔で言った。 「おれは佳彦。こっちが大介で、そっちは裕太」     
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